この妄想SSにはエロエロとかショタとかホモとかありますので、ダメダメな人にはお勧めできません。 メモ帳で見る場合のウインドウのサイズは <--------------------------------------------------------------------------------------------> これくらいがよいかと思います。 ---------------------------------------------------------------------------------------------- -前略、ご主人のフォマ様。 このメールを見る頃にはボクはもうハンターズにはいないでしょう。 ボクは先日、とんでもないところに迷い込んでしまいました。 行くところ全てから「カエレ!!カエレ!!」とあちこちで罵声を浴びせられ、 寂しさに耐きれず、つい出来心で来てしまったIoのブロック1。 ご主人から何度も「あそこだけには行ってはいけない」と聞かされていたのに。 …今思えば、日ごろボクに厳しく接するご主人への反抗心もあったのかもしれません。 そこでは誰もボクに対して「カエレ!!!」という人はいませんでした。 初めてです。挨拶は無いにせよ、すんなりとロビーに入れたのは。 嬉しくて嬉しくて、ボクはロビー中をぐるぐると回っていました。 …でもそこで帰るべきでした。 ボクにはそこはあまりにも危険すぎたのです。 うかれているボクに、一人の馬が声を掛けてきました。 ボクなんかよりはるかにレベルの高い馬です。 もしかしたらはしゃいでグルグル回っていたのを怒りにきたのかと思ったのですが… しかし、その馬は怒るどころか気さくに話を始めました。 すごく嬉しかったです。ボクは目を輝かせて彼と談笑しました。 やがて、馬はボクの装備について聞いてきたので、ご主人にカスタムしてもらった 自慢の装備を言いました。 すると彼は 「それじゃあキツイっしょ。俺がもっといいのあげるよ。」 もちろんボクは即座に 「さっき知り合ったばかりじゃないですか。もらえません。」 と、断ったのですが…。 馬はいいからいいから、とボクの手をひいてカウンターへ。 結局ボクは、ラグオルまで彼と一緒にいくことになってしまいました。 ボクがつれていかれたシティには、何人か先客がいました。 多分ご主人よりずっと年下のぽんぽんと、背の高い乳。 彼女達は馬を見つけるなり嬉しそうに走りよって腕にからみつきました。 そして甘えた声で言います。 「ねぇ〜、今度は何作ってくれるのぉ〜?」 「あたし、杖ほしーなぁ。かわいいやつぅ」 ボクは彼女達のいってることがよくわかりませんでした。 馬は彼女達を抱き寄せると、 「今日は新しいお客を連れてきたんだ」 そう言って顎でボクの方をさしました。 ぽんぽんと乳は、ボクを見るなり 「え〜、だってあれ箱じゃーん」 「やだ、どうやってやるのー?アハハハハ」 と言いました。 ますますわかりません。 思い切って馬に聞こうとしたのですが、先に口を開いたのは馬でした。 「まあ、どういうルールか教えてやるのが先だろ?」 と言って、ぽんぽんの頬を撫でる馬は、出会った頃の雰囲気とは全く別人のようでした。 「お手本を見せてやろうじゃないか」 ボクはまだ何だかわかりませんでした。 しかし、それを聞いたぽんぽんと乳はウンと頷くと、馬の手を引いて歩き出しました。 彼等は慣れた足取りで場所を移動しました。 ボクはまだ訳がわからず、戸惑っていたのですが後ろからぽんぽんが急かすように 体を押すので結局ついていってしまいました。 そして、このへんでいいな、と馬が呟くとほぼ同時にぽんぽんと乳が驚くべき行動をとったのです! まず、乳が馬に口づけをしました。長い長い口づけです。 ずっと前にご主人がテレビドラマで見ていたようなものではありません。 舌が絡み合っているみたいでした。 そしてその横ではぽんぽんが服を脱いでいます。 ボクのデータには、人前で服を脱ぐ事はいけないこととなっています。 それでもぽんぽんはあたり前のように脱ぎ、とうとう下着だけになってしまいました。 ボクはそれを見ないようにしました。 前にご主人のお湯加減を聞く為に浴場に入ったら、すごく怒られて (お湯をかけられて少しショートしましたね)、人の裸(裸に近いものも含む)は 絶対にみちゃいけないと教わったから。 ふいに声が聞こえました。 「箱のくせに照れてるの?」 ぽんぽんが、ボクを覗き込むように見上げています。これでは裸がみえてしまいます。 ボクは慌てて反対方向に顔を背けました。 すると今度は馬の声です。 「おいおい、ちゃんと見とけよ。ルールなんだから」 その言葉に反応して、馬を見ます。 馬は乳の服の上から胸を触っていました。乳はそうされながらも嬉しそうに馬に抱きついています。 「これはどういう事でしょうか?こういった事はしてはならないとボクは教わりました」 考えるより先に言葉がでてしまいました。 しかし、 「しちゃいけない?そりゃ間違いだ。それにこれは公正なルールに基づいてしてるんだぜ? ルールは守らなきゃな。そうだろ?」 と、馬は笑って言いました。 ルールは大切なものです。 ご主人も、「何事にもルールがある」と言っていました。 だからきっとこれも、彼の言うルールがあっての行動だと思います。 ボクの考えを読むように馬は続けました。 「ちゃんと見てなきゃルールは覚えられないぜ」 「…」 ボクは顔をあげることにしました。 と同時に、馬が乳の服を乱暴に脱がしました。 でも乳は嫌がるどころか、あらわになった胸を馬に押し付けています。 「そうそう!ちゃーんとみてないと、アイテムもらえないよ〜」 ボクの様子を伺っていたぽんぽんも馬の方に走って行きました。 そして馬の前で膝をついて彼のズボンのファスナーを下ろし、慣れた 手つきでボクには決してついていないモノを取り出すと口にいれるではありませんか。 そこで逃げておけばよかったと、ボクは後悔しています。 いつでもその場を立ち去る事はできたはずなのです。 でも、初めて見る事の連続で、ボクはその場から離れることができませんでした…。 「んむぅ」 馬のモノを口いっぱいに頬張るぽんぽんの表情は恍惚としていました。 小さな口です。きっと喉の奥にまで届いているでしょう。 時折苦しそうな表情を見せましたが、それでも決してやめようとはしません。 馬は乳の乳房を弄んでいます。 「んはぁ…」 乳首の回りに舌を這わせると、乳の口から甘い声が漏れました。 彼女もまた、うっとりとした表情で身をゆだねています。 しばらくの間、馬は何も言わずに乳の胸を手や舌で愛撫し、ぽんぽんもひたすら 舐め続けていました。 やがて彼女達に変化が訪れました。 乳は何か言いたそうに両足をもじもじとさせています。 ぽんぽんに至っては、四つん這いになり、左手を下着の中に入れ、性器に当たる部分を 指で執拗に触れているのです。 右手と口はやむことなく馬のペニスを刺激しています。 すでに下着は濡れて、腿には透明な液体が幾つかつたっていました。 馬は彼女達に卑猥な笑みを浮かべると、 「もう自分でいじってるのか?」 と言いました。するとぽんぽんが顔をあげて、 「…んふっ…だってえ…」 「まだだ。ほら、休むな」 馬は、ぽんぽんの頭を押さえて再び口の中に自身を押し込みました。 と同時に、乳の足の間に手を伸ばし、付け根のあたりをさすります。 「はぁんっ」 その瞬間、乳の声が一層高くなりました。 「ここは触れてもいないのに…こんなに濡らしてるのか」 するりと抜けた馬の指はぬらぬらと光っています。 「意地悪…っあはぁっ!」 即座にそこに戻された手は、今度は軽く触れるだけではなく直に刺激を与えているようで、 突然の刺激に足もとが完全におぼつかなくなった乳は必死に馬にしがみついていました。 「やっあっぁっ」 馬が激しく手を動かす度に乳は体をガクガクと震わせています。 やがて、左手でぽんぽんの頭を押さえたまま馬は腰を動かし始めました。 いろんな声と、いろんな息が激しく混じり合う中、ボクはただ黙って見ていました。 目が離せなかったのです。 何より、色々な思考がぐちゃぐちゃと混乱して動けませんでした。 今までに感じたことの無い気分がボクをいっぱいにしました。 「はぁっあっダメ、ダメ、もうだめぇ!」 馬の手を挟んだまま、乳の腰は激しく波打っています。 「あああああああっ━━━━━━」 そして背をあらんばかりに反らせ、ひときわ大きな声で叫んだあとガックリと馬にもたれかかり、 肩で大きく息をしながら、ずるずると地面にすわりこみました。 馬は乳の愛液でべたべたになった指を舐めると、今度は両手でぽんぽんの頭を固定しました。 「よし…このまま出すぞ」 息を荒げて言いました。 「ふぅっんっんんっ」 ぽんぽんは激しい動きの一つ一つに、苦しそうな声を漏らしつつも決して馬から離れようともせず、 彼女の右手の指も一層激しさを増し、あたりに水を含んだような卑猥な音が響き渡ります。 「んぅうむっはぅっんあっ」 「くっ…」 馬が深く腰を突き立てると同時に、 「んんんんんんんっ」 ぽんぽんはそれを咥えたまま体中をピンと強張らせました。 口から溢れた精液が、地面をぽたぽたと濡らします。 馬がゆっくりと腰を引くと、ぽんぽんの唇からすぅっと糸が垂れました。 彼女は上を向いて唇の端から漏れた液体を、細い指で口に誘い、ちゅるちゅると吸っていました。 「…」 ボクは何も言えず立ち尽くしていました。 何か言いたくても、言葉が全然でてきません。 「これがココのルールだよ」 服装を整えた馬が、何事もなかったかのように言いました。 ぽんぽんと乳は下着もそのままに、まだぐったりとしています。 「ル…ルール?これが、ルール?何の…!?」 ボクはびっくりして、言葉もままならず叫んでしまいました。 しかし、馬は呆れた様にせせら笑いました。 「分かれよ。…つまり、やらせてくれれば『何でも』くれてやるっての」 「何でもって…」 すると馬はボクの言葉を遮るように、彼女達の足元めがけて何かを投げつけました。 何かと思って見るとそれは…。 木の枝の先端に、「チャオ」とかいうどこかのマスコットキャラがついた杖と、 全く見たことのない銃。青く塗装された銃身が印象的でした。 どれもきっと凄く高価で稀少価値のあるものに違いありません。 特に「チャオ」がついた杖は、ご主人が何時間も眺めては溜息を漏らしていたカタログで見たことがあり ましたから。 「あはー!ありがとぉw」 まだおぼつかない手つきでぽんぽんが杖を取り、乳は銃を取りました。 「杖はMDH、ミラはD重複」 「あの…」 まだイマイチ理解できないボクは思い切って馬の背中に問い掛けました。 「その、つまり…ああいった事をした人に、何かアイテムを渡しているんですか?」 馬は振り返ると、冷たい笑みを浮かべてこう言った。 「条件付配布ってヤツ?」 「…でも、そんな高価なもの…」 「勿論偽造だよ」 「え!?」 -偽造品- ボクはあくまでも、ロビーの噂やご主人からしか聞いたことが無かったので、実際に 目の当たりにするのは初めてでした。 ボクには本物も偽造品も、一生縁が無いと思っていましたから。 「偽造でも複製でも何でもやるよ?」 ぽんぽんと乳が帰って、ボク等は二人きりになりました。 さっきからボクは複雑な気持ちです。 アイテムが欲しい為に、彼女達はあんなことを平気でしていたのです。 そこまでして欲しい物…。 「──で、お前もなんか欲しいだろ?」 「いいえ…ボクはそういった物は…良くないっていうし…」 ボクが断ろうとすると、馬はバカ正直もたいがいにしろよ、と笑って 「コレは違法だのなんだの騒がれてるけど、あくまで合法だよ。  だから誰も取り締まってないだろ?たまにバカが調子乗りすぎてひっかかったりするけどさ。  それになあ、属性操作すれば本物よりもめちゃくちゃ使えるんだぜ?  お前強くなりたくないのか?  一つでももってれば、どこいってもカエレとか言われなくなるぞ。  今までお前をバカにしてた奴らに目にモノみせてやれよ」 こう言ったのです。 その時、ボクはレアアイテムを持った自分を想像してみました。 蔑まされていた自分が… カエレとあざ笑っていた彼等のチームに強い武器を持って登場… 見たことも無い武器にさぞ驚くことだろう、ボクには何も言えなくなるだろう… そして、沢山強くなって…… 沢山沢山、強くなって… ───ご主人に認めてもらおう。 そうだ、認めてもらうためには強くならなきゃ… 強くなるには、強いモノが必要だ… 今なら、手に届くじゃないか… チャンスじゃないか… 「…」 長い長い沈黙が続きます。 「どうよ」 馬がボクの肩をぽんと叩きました。 「………でも、  でも、ボクは何もできません」 これがボクの答えでした。 強くなるなんてばかげた妄想だとわからずに、ボクはそういう結論を出してしまいました。 信じられない事の連続で、ボクの思考回路は麻痺していたのかもしれません。 でもこれこそが、紛れも無いボクの本当の姿だったのでしょう。 馬はそうこなくちゃな、といった顔をすると笑ってこう言いました。 「まさか。俺だって箱なんざとやりたかねーよ」 「どうすればいいのでしょう」 「その辺のロビーから連れて来ればいいだろ」 「え?」 ボクは、呆気にとられてしまいました。 「俺もいい加減あいつら飽きたからな〜。ちょーど新しいのが欲しいんだよ」 それはきっとさっきのぽんぽんと乳の事でしょう。 まるで人を玩具のように言い放つその馬に違和感を覚えましたが、彼の言うことを 聞かないとボクは強くなれないので、黙っていることにしました。 「そうだな。まあ細かいことは指定しないから、適当に連れて来いよ。最初はお前にまかせるよ」 そして、馬はボクに何かを手渡してきました。 見ると彼のギルドカードのようです。 …ご主人以外の人からカードを貰ったのは初めてでした。(そしてこれが最後となるでしょう。 その時は、ただ純粋に嬉しかったです。) ボクはご主人の次に彼のカードを大切にしまいました。もちろん、ボクからもカードを渡すのを忘れませ ん。 「いいのが釣れたら連絡よこしな。いつでもいるからさ…」 馬はボクの返事を待たずに、シティを後にします。 ボクはただ黙って、その姿が見えなくなるまで後ろ姿を見つめていました。 ---------------------------------------------------------- あれから1日が経ちました。 ラグオル森林地帯の調査からご主人が戻ってくるまで、あと4日程あります。 緊急以外メールの送受信をしてはいけないような仕事だと聞いていました。 ボクにとってそれは何となく幸いでした。 居住区に戻らなくてすみますし、色々と考えることがありました。 きっとこんなボクを見たらご主人は不審に思うに違いありません。 強制的にメンテナンスをされて、ボクのメモリーカードに保存された今までの出来事を全て知られてしま うでしょう。 それだけは絶対にヒミツにしておきたかったのです。 ご主人に知られたらきっと怒られ、1-1に行ってしまった事、そこであった事や見たものも全て消去され かねません。 ただ、ご主人には…急に強くなったボクを見て驚いて欲しいのです。 とにかく頭の中は先日の事でいっぱいでした。 まだ考えがまとまったわけではありません。 「適当に連れて来ればいい」 馬はそう言っていたのですが、そんな事がまかり通る訳がないのは充分承知しています。 それに箱のボクなんかが、一体どうしたら人を紹介できるようになるのでしょう。 紹介してもらった事は沢山あっても、自分から紹介する事は一度もしたことがありません。 もう、日頃利用するロビーの人たちとも顔を合わせたくない気分でした。(今のボクにカエレ!!と言っても何 も反応できません) ボクは散々迷った挙句、自分も行ったことが無くて、尚且つあまり人のいないシップに移動することにし ました。 辿り着いたロビーは人もまばらで、どことなく落ち着いた雰囲気が漂っていました。 何も考えずに適当に選んだ場所なのでシップの名前は覚えていません。(メモリーには保存されています が) ボクは隅の方に移動してロビーの雰囲気を眺めていました。 ふと、乳と目が合います。 髪をツインテールに結んだ、白い服の乳でした。 年端は先日馬の所にいた乳と同じくらいだと思いますが、どこか幼さを漂わせています。 「箱…久しぶりに見た」 乳がポツリと呟きました。 「は、はぁ…」 ボクは曖昧な返事をします。 「私、昔はよくいじめたもんよ〜。箱」 乳はいたずらっぽく微笑むと、 「だから私に近づく箱いなくなっちゃって…なんとなく箱イジメやめたんだけど」 スタスタとボクに近づいてきました。 そしてボクの前に立つと、腰に手を当ててジロジロとボクを観察するように眺めています。 「やっぱりなんかムカツクわね」 「そ、そんな…ボクが何をしたというんですか?」 言いがかりです、とボクは訴えました。 「そうそう、そういうところがなんかハラたつのよね。どうして箱ってそんなウジウジしてるの?」 どうしてとボクに聞かれてもわかりません。 乳はやがて嫌悪をあらわにしました。 「まあ所詮機械だもんね。なーんか作りもダンボールっぽいしー。  人間に逆らえないようにできてるんでしょ?へーこらしちゃって。  弱いくせに図体だけでかくてやんなっちゃう。邪魔なの。  だからムカツクのよ。だからカエレ!!って言われるのよ。  目に付くのもウザイからとっととどっか行ってくれない?」 ボクはだんだん悲しくなってきました。 この乳は今までこうやってボクたち箱を蔑んできたのでしょう。 乳だけではありません。多くの人々が、悪意の有無に関わらず箱を迫害してるの事実は明白です。 ボクは他の事を考えていたせいもあってか、この乳の言動をいつもの事として処理する事ができません。 何故だか、とても悲しくて悔しいのです。 罵声を浴びせる乳の目の前に、ボクは立ちました。 「な…なによ」 乳は一瞬、驚いた表情でボクを見つめました。 ボクの体は全体的に大きい方です。乳はあっという間にボクの影に包まれてしまいます。 「ボクが、あなたに何をしたと言うのですか」 「何よ…」 「ボクはあなたに会ったばかりです。あなたの事は何も知りません」 ボクは乳に詰め寄ります。乳は虚勢を張りながらもおずおずと後退しています。 「あなたが箱を嫌いなのは勝手です。でも、箱の存在自体を脅かす発言は許されるとは思っていません」 「なんなのよっ…でかい図体で脅そうったってそうは…!」 乳の背中がぴったりと壁に張り付きました。 知らずに追い詰められ、驚いた乳はあたりを見回しますが、いつの間にかここはボク達以外誰もいなくなっていました。 「…は、はなれなさいよ!人を呼ぶわよ!」 ここはカウンターからすら見えない死角です。 完全に動揺切った乳はボクの体を叩いたり蹴ったりしますが、ちっともダメージにはなりません。 「ボクだって強くなりたいです。出会い頭にカエレと言われないくらいに強くなりたいんです」 「勝手になればいいでしょ?もう、どっかいってよ!」 乳は涙目で訴えます。 「今までずっと迷ってましたけど…あなたのような人なら、ボクは喜んで彼に引き渡します」 「え────」 ボクは乳の言葉すら待たず、彼女の鳩尾に軽く拳を入れました。 乳はそのまま、壁を背にずるずると座り込むように倒れました。 「…」 いくら怒りにまかせたとはいえ、女性に手をあげたのは初めてです。 ご主人に知れたら…という考えがよぎりましたが、もうここまで来てしまった以上引き返すわけにはいき ませんでした。 そして、ボクは端末を取り出すと、あの馬に 『きてもらえますか』 と、一言だけメールを送りました。 そんなに待たされることなく馬からの返信はすぐ届きました。 ボクは誰にもみつからないように、乳をシティに運び込みます。 転送する時、カウンターの人が少し怪訝そうにボクと乳を見比べていましたが、適当な事を言って逃れま した。 それでもボクは落ち着かず、馬が来るまで無意味にウロウロとしていました。 しばらくして…馬の姿が見えてきます。 ボクはようやく安堵を覚えました。 「よぉ」 馬はあの時のままでした。 今は、そんな事でもボクにとっては安心できるのです。 「へぇ…お前、ホントにやるとは思わなかったよ」 馬はボクの傍らに倒れている乳を見て言いました。 「あ…あの…」 まだ落ち着かないボクは何を言っていいのかわかりません。 「まあよくやったよ。マジで」 馬はそう言うと、ボクに銃を差し出してきました。 それは、かの有名なアンティークモデルのマシンガンでした。 「え!?」 「約束だろ?」 受け取れといわんばかりに押し付けてきますが、それを目の前にするのも初めてなボクは思わず躊躇して しまいます。 「いらねえの?せっかく造ってきたのに」 「あっいえ、そんな」 ボクは震える手でそれを受け取りました。初めて手にするそのマシンガンはしっかりとした重量感があり ました。 「…あ、ありがとうございます」 ボクはそれを大切に抱え、深く頭を下げました。 「いいって。…さてと」 馬は乳のそばにしゃがみこみ、頬をペチペチと叩いて起こそうとしています。 しかし乳は身をよじらせ、苦しそうにうなるだけで起きようとはしません。 途端にボクは居たたまれない気分になります。 目を覚ました乳は一体何を思うでしょう。 そう考えるとボクは怖くてしかたありません。 震えるボクの手の中で、マシンガンがカチカチと音を立てています。 「あー、そか。お前もう帰っていいよ」 そんなボクを察したのか、馬はボクにそう言いました。 その言葉に、何故かとても救われたような気がしますが…恐怖がおさまったわけではありません。 「別にもう見たくないだろ?見たいってんなら別だけど」 馬はいたずらっぽく笑いました。 「い、いえ!」 ボクは激しくかぶりをふりました。 「ただ…その…その人が起きて、その…すんなりとああいった事をするかどうかわかりませんし…」 「なんだそんな事か。大丈夫だって。こいつにもくれてやる物はやるし」 表情一つ変えず、馬は続けました。 「お前の事も言わないでやるから安心しな。適当にあしらうから」 そして、乳を抱えると居住区へ続く転送装置へと歩き出します。 「じゃあまたな〜」 馬は転送装置に乗ると、そのまま消えていきました。 別に…疑っていたわけではありません。 彼のする事に興味があったわけでもありません。 でも…あの乳がどうなったのか、ボクは不安でたまりませんでした。 ボクは馬から受け取ったマシンガンをチェックルームに預けると、転送装置に乗り、居住区へと向かいま す。 馬の居場所はカードのナンバーからセンサーで感知できるのですぐ分かります。 その行為自体、居住区では一切禁止されていますがボクに迷いはありません。 ボクはまっすぐ馬のいる場所へと歩き続けました。 歩き続けて15分程経ったでしょうか。 ボクの居場所と、馬の居場所がピッタリと一致しました。 そこは住居地帯の外れにある一軒のホテルでした。 ここに、あの二人がいるのです。 「…」 ボクはしばらく迷いましたが、人目につかない場所に身を潜め、センサー自体の感度を上限近くまで上げ て馬を探します。 こんな事が見つかったらボクはすぐさま連行されるでしょう。 いままでのボクならこの行為をする事自体考え付かなかったはずです。 自分のしている事に驚いている暇も無く、やがて会話が流れ込んできました。 『…!!』 雑音が多くてよく聞き取れませんが、あの乳の声に間違いはありません。 『いや………んなの…………らない!…………だか………帰し……!!』 その、悲鳴に近い叫び声はボクを苛みます。 彼女に対してあの馬は、いつもとかわらない調子で話しているのでしょう。 それは聞き取れなくてもなんとなくですがわかりました。 『おねが……………ゆる……て!!!…やぁ!…………………』 その叫びを最後に、乳の声が聞こえなくなりました。 時折喘ぎ声のようなものが聞こえてきます。 ボクはそれ以上聞くことはできず、ゆっくりとセンサーのスイッチを切りました。 とても嫌な気分です。 とても悲しい気分です。 ボクのした事は、あの乳より酷いことかもしれません。 ボクのした事は、犯罪かもしれません。 いやきっと、そうでしょう。でもそれを認めるとボクはどうなってしまうのでしょう。 とてもとても怖くなりました。ここにいるのは耐えられません。 ボクは、叫びだしたいのを堪え、逃げるようにその場を後にしました。 -------------------------------------------------------------------- それから2日間ボクは誰にも会わないように、一人ラグオルに降りていました。 あのマシンガンはチェックルームに預けたまま引き出していません。 一度、試そうと思って使ったのですが…どうしてもあの乳を思い出してしまうのです。 いっそのことどこかへ置いていってしまいたい…とも思ったのですが、おかしな未練が付きまとって なかなか手放すことができませんでした。 どうすることも出来ず、ただ3日間ラグオルをさ迷っています。 そうする事で気が紛れるからです。 あれから何度か馬からメールが届きましたが、返事はしていません。 もう明日にはご主人は戻ってきます。 できればこのまま原生生物に粉々に破壊されたい…何度そう思ったことでしょうか。 それでもボクは死ぬ事も、殺される事もできずにここにいます。 そして、偶然見つけた小部屋に内側から鍵を掛けてずっと引き篭もっています。 長い間メンテナンスをしていないので、体がだいぶ錆ついてきました。 間接は動かす度にギシギシと鈍い音をたてます。 壁に寄りかかるように座ったまま、ボクは動きません。 このまま洞窟の一部になって風化するのも面白いかな、という考えも浮かびました。 自分でメモリーカードを破壊して、全て綺麗に忘れて…。途方もない事が後から次々によぎります。 でもボクは、自分のメモリーカードがどこにあるのかわかりません。 昔…旧型のボクに手を焼いていたご主人を見かねて、自分でもできるぞと意気込んで…結果、 誤ってメモリーカードを破損しかけ、最終的にはご主人の仕事を増やしてしまいました。 それからボクのメモリーカードのありかはご主人だけしか知らないようになったのです。 でもご主人は、ボクが不調の時や緊急の時以外、決してむやみにボクのメモリーを見ることはありません でしたよね。 見るとしても要点に触れることだけでした。 『あなたにも知られたくない事だって沢山あるでしょう?  あなたにとってそれは小さな媒体でも大切な記憶が詰まっている事には変わりないもの。  むやみやたらに覗くことは、あなたを物扱いしているのと同じ。  私はあなたを物だと思っていないわ、だからあなたも、自分に誇りを持ってね』 …何故でしょう。 今になってこんなにもご主人の事を沢山思い出すのは。 『どうして分からないの!?私はそんな事絶対に認めません!!!!』 『こら!いい加減にしなさい!!!』 ご主人の、ボクを叱る声がなんだか遠い昔の事のように蘇ります。 『あなたは一人じゃまだ何もできないんだから!勝手な行動は慎みなさい!!───』 今までのボクのメモリーを見たらご主人はどんな顔をするでしょうか。 きっと怒って、全て消した後、ボクは捨てられるでしょう。 だったらここで朽ち果てた方が──── 「──ん、箱さん」 どうどう巡りするボクの思考をふいに断ち切ったのは、久しぶりに聞く人の声でした。 ずっとボンヤリとしていたので、視覚をきちんと整えるのに数秒かかりました。 目の前に、一人の女の子がいました。しゃがみこんでボクをつついています。 とんがった耳に、独特の衣装。ぽんぽんでしょうか。 「箱さん、箱さん」 「あれ…」 「あ、動いた!やっとしゃべった!」 女の子の顔がぱっと明るくなりました。 「ずっと動かなかったから、死んでるのかと思っちゃった」 「…」 ボクは意識を総動員して集中させました。 確か、ここは誰にもみつからないように内側から鍵をかけたはずです。 センサーも外部から感知されないように切っておいたはずでした。 「あれ?またしゃべらなくなっちゃった…死んじゃった」 つまらなさそうに女の子は呟きました。 「ええと…」 「またしゃべった!生き返った!」 女の子の表情が再び明るくなりました。 見ていると、コロコロと表情が変わってなんとなく面白いです。 「…あなたは、誰、ですか?どうしてここにこれたのですか?」 ボクはやっとの思いでしゃべる事ができました。 「うん、迷子になっちゃった。変な扉あって、開かなかったから壊しちゃった」 よく見ると、彼女の背後にあるはずの扉が、高温で溶かされたように妙な形に変形していました。 「でね、なんかあるかなーって見たら、箱さんがいたんだよ」 女の子はにっこりと微笑みました。 「迷子に、なったんですか…?女の子が、こんな所に一人じゃ危ないです」 すると突然、彼女はむっとふてくされたような顔をしてボクを持っていた杖で強くつつきながら、 「僕女の子じゃないよ!」 と、怒り出しました。 ボクは驚いて、改めてよく見ました。 「ああ、王子だったんですね。ごめんなさい。ずっと動かなかったから少し故障したのかもしれません」 一見女の子のような王子は、まだふてくされてボクの体をつついています。 「…で、でも、お父さんやお母さんが心配すると思いますから…早く帰ったほうがいいですよ」 ふと、彼の手が止まります。そして、消え入りそうなくらい小さな声で呟きました。 「そんなのいないからいいんだよ」 「え…」 「ううん、なんでもないよ。…箱さんは?箱さんは家に帰らないの?」 王子がボクの顔を覗き込みます。 「いえ、ボクは…もうあまり動けそうもないのでここにいます」 「動けないの?レスタで治る?」 返事をする間もなく、王子はレスタを連発します。 しかし、ボクはもう内部の至る所に故障が出始めているので、あまり効果はありません。 「ごめんなさい、少し無理です。中身が故障してきていますので…」 「アンティで治る?」 そして再びアンティを連発します。 「旧型なので…」 「む〜〜〜〜」 王子は困ったように、頬に手をあてて考え込みました。 「ボクの事は放っておいて結構ですから…」 「ヤダ。せっかく会ったんだから、話しようよ」 そう言って傍らに座り込む王子に、ボクは不思議な印象を覚えました。 ボクは彼の印象に飲みこまれるまま、拒否はしませんでした。 …全て動かなくなる前に、少しだけ時間が欲しかったのかもしれません。懺悔の時間を。 それから約1時間程経ちました。 懺悔と言っても…いきなりあんな事を話されても彼は困るでしょう。 しかし、何故か分かって貰えそうな気もします。 そうしたら彼は何を思うでしょうか。今と同じように、まっすぐにボクを見てくれるでしょうか。 何故こんな思いをしなければならないのか、ボクは思いました。 いっそのこと感情回路などつけてもらわなければよかったと。 本当にただの「箱」でいたほうが良かったのではないでしょうか。 もしくは本物の人間だったら、まがいものの感情に振り回される事無く、あんな過ちを犯さずに生きてい けたのではないでしょうか。 ボクは、そうしてまた終わりの無い答えを模索して同じ事を延々と考えるのでした。 結局ボクは言いかけても言葉に詰まってしまい、何も言えずただ王子の話を聞いていました。 聞いていたといっても内容を理解する程ではありません。上の空というやつです。 「…箱さん」 王子がボクをじっと見つめています。 「はい」 ボクは彼の方も向かずに返事をしました。 「僕は今までずっと、箱さんとか、汁さんとか、旦那さんがとっても羨ましかったんだよ」 落ち着いたトーンで、ゆっくりと王子は言いました。 「え?」 ボクは首が軋むのもかまわずに彼の方に顔を向けました。 「んと…こんなこと言ったらダメかもしれないけど、ロボットでしょ?人に作られて、人の言う事を聞い て…」 王子はボクの手を取って、埃をはらいおとしながら言いました。 「それでも、絶対文句言わないし、…文句とかが浮かぶ心そのものが無いものね」 「はい、普通はそう造られています」 「でもでもでも、箱さんは違うよね。ちゃんと心あるでしょ?」 「心といいますか…感情回路なら、ご主人…の元に配属された日に取り付けてもらいましたが」 「そっか、誰かのところにいくとつけてもらえるんだ」 王子は何故か嬉しそうでした。 「いえ、配属先によると思いますよ」 「箱さんのご主人は、きっと素敵なひとなんだねー」 まるで自分の事のように思っているのでしょうか、本当に嬉しそうににっこりと笑っています。 そんな王子を見て、ボクは何故だか誇らしくなりました。 ご主人の事を良く思われるのはとても嬉しいです。 「僕はねー、ロボになりたかったんだよ〜」 王子の表情に、ほんの少し影がかかります。笑顔には変わりなくとも、どことなく悲しげでした。 「僕も、ニューマンだから、人から作られた事になるんだけど…」 と、尖った耳を両手で触れながら言います。 「人間に近すぎるから」 とうとう笑顔が消えました。 「法律とかで、差別がなくなったって言っても、結局気味悪がる人もいるし…酷い事する人たくさんいる よ」 ニューマンに基本的人権が与えられたのはいつだったでしょうか…。 いくら法の上にあっても、迫害される者、そして迫害する者はずっとそれを引きずっていくのでしょう。 その気持ちはボクにも分かります。 「もっとも僕の場合は、こんな顔してるし…他の人と一緒に何かするの苦手だから、自分自身のせいもあ るんだろうけど。  本当はね、この場所は僕の隠れ場だったんだよ。今日もいじめられたんだ…いじめられたら、いつもこ こに逃げてるんだ」 そして、王子は再び悲しい笑顔を見せました。 「ここでいっつも、『こんな思いするくらいだったらロボになった方がましー』、とかいっぱい思った よ。でもね…」 少しの間の後、王子は今までの悲しい表情をどこかへ忘れたように、今度は本当に嬉しそうな顔をボクに 向けて 「ここ来たら箱さんがいて…なんかいっぱい悩んでる箱さん見たらどうでもよくなっちゃった」 と、笑いながら言ったのです。 「──え?」 呆気に取られたボクを見て、彼は再び笑います。 「箱さんも、何か知らないけど悩んでるでしょ?悩んでるカンジが、すっごく人とそっくりだから…  そんな箱さん見てたら、『なんだ、箱さんも僕も同じじゃん』って思っちゃった」 「…えーーと?」 一瞬、思考を読まれたのではないかと思い戸惑いました。 『ただの箱になりたい』とか『本物の人間になりたい』とか、ボクも結果的には王子と同じ事を考えてい たからです。 オロオロしているボクを彼は嬉しそうに眺めています。 「あーん、もうね、もうね、そんなとことかね〜、箱さんって面白いんだね〜」 王子は興奮して、頬を上気させていました。 そして、ボクの一挙一動を嬉しそうに眺めているのです。 どこかで見たような目をしています…と思ったら、以前ご主人が仔犬を預かった日がありましたよね? 仔犬の仕草が変わるたびに喜んでいたご主人の目と同じだったのです。 ボクから見ても、この王子は本当に面白い子でした。 お互いの表情や仕草を見ては驚いたり笑ったり、そしてその事について語ったりしました。 ボクは今までこんなに深く、尚且つ楽しく人を観察した事はありません。 ご主人以外の人の前では感情自体を最小限に閉ざしていましたから。 それでもボクは、自分自身の犯した罪については片時も忘れる事はできませんでした。 できればこのまま、この王子には何も知らないままこの場を立ち去って欲しい、そう思いました。 「そろそろ帰らなくて大丈夫ですか?」 時を見計らって、ボクは口火をきります。 「あ…そういえばお腹すいた」 「それは大変です。早く帰らないと飢え死にしてしまいますよ」 「あはははは、そうだね〜」 王子はボクの冗談を嬉しそうにそのまま受け取ると、立ち上がってぐっと伸びをしました。 「箱さんは?」 一緒に帰らないの?と、座り込んだままのボクを見ます。 「ええ、すぐ帰りますよ」 「ふぅん…」 少し悲しそうな表情を見せましたが、すぐに元の笑顔に戻りました。 「また会えるかな?」 「ええ、また会いましょう」 ボクは嘘をつきました。 本心では、とても再会したいです。また色々と話したり笑ったりしたいです。 ですが、ボクは独りでやらなければならない事があります。 誰にも悟られずに朽ち果てたいのです。 「うん!約束だよ。はいこれ」 王子がボクに手渡す一枚のカード…ギルドカードでした。 「…ボクに?」 「うん」 さも当たり前のように王子は頷きます。 「あ…ありがとうございます」 すごく嬉しかったです。あの馬に貰った時より、ずっとずっと嬉しかったです。 …本来ならば、ここでボクも渡すべきなのですが、今それをする事は出来ません。 貰う事ですら許されていないはずのボクには、これ以上の贅沢はできません。 「すみません、あいにくボクの端末はこの通り壊れていまして…」 ボクはそう言いながら、数日前に自分で電源を落とした携帯型の端末を王子に見せます。 「壊れちゃったの?検索もできないの?」 それを見た王子は、僅かですが落胆しています。 ボクはそんな彼をあまり見たくないので、 「帰ったら直しますよ。直したら一番に連絡します」 また嘘をつきました。 「ほんと?約束だよ!」 王子に明るい表情が戻ったのを見て安心しました。 「それじゃあ僕帰るね、直したら絶対メールちょうだいね!」 「はい、それまでお元気で」 「よーいしょ」 そして王子は踵を返すと、変形した扉を乗り越えて帰って行きました。 途中何度も振り返って手を大きく振っています。 ボクも、手を振り返しているつもりで、彼が小さくなるまでずっと見送っていました。 それから、約12分が経ちました。あの王子はもうこのエリアを出ているはずです。 真っ直ぐに帰ればの話ですが。 念のため、王子がいなくなった事を確認しようとボクは少しだけ端末の電源を入れる事にしました。 そしてセンサーを起動させ、マップに何も存在が無い事を確認してからこの場所を移動しようと考えてい たのです。 しかし…マップには、二つのマーカーが点滅しています。それも、この近辺でした。 「誰かいますね」 誰に向かって言うでもなく、ボクは呟いていました。 王子のカードを称号させてみました。 一つは完全に、彼の番号と一致します。 こんな所でなにをしているのでしょうか。あまりにも遅いので迎えがきたのでしょうか。 …それにしては、腑に落ちません。帰る気配すらなく、その場にとどまっているようにみえます。 もしかしたら…叱られているのかもしれません。 こっそりと様子を見に行きたい所ですが、この体ではすぐに見つかってしまうでしょう。 とりあえずボクは、王子からもらったカードをきちんと保存しようと、画面をカードの管理画面に切り替 えます。 上からご主人、あの時の馬、2枚しかありません。ご主人の次に入れようか──と思ったときです。 ふいにですが。 それは、本当に『何気なく』の行為でした。 予測もしていません。何の期待すらしていませんでした。 ただそれが目についたので、あの馬のナンバーを、現在のマップと照合させてみたのです。 勿論、一致するわけがありません─── ピピピッ ナンバーとの一致を告げるアラームは、こんなに大きかったでしょうか? こんなに驚くものでしたでしょうか? 無意識にボクの手がガタガタと震えます。 とても嫌な予感がするのです。 ボクの手から、端末が転がり落ちます。 地面に落ちた端末の画面では、明らかにこちらに向かっている二つの存在が点滅していました。 --------------------------------------------------------------------------- ──なぜ、王子があの馬と一緒なのか、ボクにはまったく検討がつきません。 早く逃げなければ…できれば、王子も一緒に連れて行きたいです。 ボクは立ち上がろうとしました…が、体はガタガタでうまく立ち上がれませんでした。 これほど自分の体がままならないのを悔やんだ事はありません。 それも自分の所為で、です。やり場のない悔しさがこみあげてきました。 ボクは自分の足を、自分の手でつかみあげるようにして立たせようとしますがうまくいきません。 自分に奮闘すること数十秒、 「──────いた」 ふいに背後から聞こえたその声はボクを絶望の底へ叩き落します。 体はガクガクと震え、軋む音が嫌に耳につきました。 怖くて振り返る事もできず、ボクはそのまま固まってしまいました。 しかし、その声は容赦なくボクを現実へと引き戻します。 「こんな所でひきこもって何やってんだよ?」 声の主が、すぐ後ろに立ったのが気配でわかります。 長い影がボクを追い越して、向こうの壁にさしかかりました。 ふと、もうひとつの小さい影がかかります。 「あの…馬さん、箱さんの事知ってたの・・・?箱さんは…この馬さんの事知ってるの?」 王子の声でした。明らかに戸惑いの色を見せています。 ボクはゆっくりと振り返ります。これが幻であって欲しいと願いながら。 「知ってるも何も…なぁ?」 現実とはいつもむごいものです。 そこには当然のように、良く知っている顔の馬と、先ほどまでここにいた王子が立っていました。 馬の傍らで、王子が不思議そうに首をかしげています。 「帰らなかったのですか…?」 ボクは、無意識に馬を見ないように言いました。 王子は少し申し訳なさそうに頷くと、 「だって箱さん動けなさそうだったし…誰か呼んでこようと思ったら、この馬さんがいたんだ。  動けなくなった箱さんがいるから助けてくださいって」 といって馬を仰ぎ見ます。 つられるようにボクも馬の方に顔を向けると、馬はボクをじっと見下ろしていました。 今までに見たこともない冷たい視線です。 「あれから連絡もよこさねえと思ったら」 馬は、冷たい目を保ちながら吐き捨てるようにそう言いました。 ボクはそれ以上見ていられなくて、すっとうつむきます。 「おおかた怖くなって逃げ回ってたんだろ?」 「…」 何も言い返せません。言い返せるわけがありません。 この馬はボクの全てを知っているのですから。ボクが何をしたか…ぽんぽんと乳…偽造品…そして、あの 乳と彼女を引き合いに手に入れたマシンガン…今まで思い出す事を必死に避けていたことすべてが頭の中 でループします。 「えっと…僕、帰ったほうがいいよね」 ボクと馬の緊迫した雰囲気に、入り込める余地がないと悟ったのでしょうか、王子のうろたえた声がしま す。 わだかまりは残るでしょうが、そうしてくれた方がボクも助かるのは確かです。 何も知らずに帰って欲しいのは今でも変わりません。 「じゃあ、ね。箱さん」 少し憂いがこもった声にボクは顔をあげます。 王子は踵を返し、通路を乗り越えようとした瞬間── 「きゃぁっ」 突然、馬が王子の肩を掴み、そのまま引きずり出すに中に放り込んだのです。 王子はあまりにも唐突な事に驚き、女の子のような悲鳴をあげるとボクの傍らに倒れこみました。 「な…なんて事をするのですか!」 ボクは軋む体で王子を助け起こしながら馬の方を向きました。 「俺さあ」 馬は面倒そうに言うと、ボクの目の前にしゃがみこみました。冷たい…というより無表情に近いその顔は 直視するのは辛かったです。しかし、何の関係もない王子に対する行動は許せません。ボクは冷たい気迫 に負けないように彼を直視し続けました。 「お前は結構いいセンスしてると思ってたんだよな」 ごくゆっくりと、言葉をつむぎ出すように馬は語りかけます。 ボクの手の中で、王子が怯えているのが分かります。どうにかして彼だけでもここから離れる事はできな いでしょうか…と思っても、その考えはすぐさま馬の一言全てにかき消されてしまいました。 「あの乳…覚えてるよな?」 「…」 あの乳の事を言っているのでしょう。ボクの中に雑音に混じった悲痛な叫びが繰り返し蘇ります。 「あれ最初すっげえ嫌がってさ…今でも嫌がってるけどよ」 馬は何故か嬉しそうに言いました。 「あそこまで抵抗し続けるヤツ初めてだよ。すげえおもしれえのな」 今でも─ということは、あの乳は今もなおこの馬の傍に置かれているのでしょうか。 どんな扱いを受けているかまでは恐ろしくて想像したくありません。 「でもあまり元気が良すぎるのは問題だよな?この間なんか勝手に逃げようとしてさ…」 そして馬は冷たい微笑みを浮かべ、ボクの反応を楽しむように話を続けました。 「ちょっと頭きたから、Ioに連れてって…すっぱだかで森の真ん中に放り出してきたよ」 「・・・!」 王子の体がこわばったのがわかりました。突然こんな信じられない事を耳にし、精神的に相当まいってい るはずです。 震えているのはボクも同じですが、今はただ彼の背中をゆっくりとさする事しかできません。 「しばらくして見にいったらよ〜、もうすげえ犯られててさあ。こええよな〜1-1って」 馬はいかにも面白そうに、皮肉をたっぷりと加えながら笑って言いました。 「それからちょっとはおとなしくなったかな?というかもう大分、頭逝ってるみたいだけどな」 「──てよ」 「あ?」 「やめてよ!!!」 たまらず叫びをあげたのは王子でした。 ボクの手の中で耳をふさぎ、震える体で声を振り絞って叫び続けました。 「本当でも嘘でも…そんな話はいやだ…しないで!!!」 「なんだお前、聞いてないのか?その箱から」 「…」 ボクには何も言い返す言葉が見つかりません。王子はただ体を震わせ、何も聞きたくないと耳を塞いだま まかぶりを振っています。 「おいおい、大した偽善者だな。自分がどんな事したのか言ってないのか?  まあ、お前みたいな臆病者が言えるわけねえよなあ」 そして、ボクの腕の中から無理やり王子を引きずり出し、抱えるように引っ張り込むと、 両手で彼の細い両腕を掴んで耳を塞いでいた手を剥ぎ取りました。 「いやだぁっ」 フォースの力が…というよりまだ子供の王子の力が、馬にかなうわけがありません。 それでも王子はなんとか逃れようと暴れ続けます。 「うるせえ!黙ってねえとぶっ殺すぞ!!!」 「ひっ」 馬の怒号が湿った空気を張り詰めます。それと同時に王子は、力無く馬の腕の中に体を預ける形になって しまいました。 王子はもう完全に怯えて、今にも零れ落ちそうな涙をたくさん目に浮かべていました。 「その王子は何も関係がないはずです…脅したりするのは…」 「関係ないわけねえだろが。さっきまでお前こいつと一緒にいたんだろ?」 「確かに一緒にいましたが、この事とは全く関係ありません…!!」 ボクが必死に訴えると、馬はそれを嘲笑して一蹴し、 「こいつはお前がどんな事したか知るべきだろ?お前の事そうとう気に入ってるみたいだしなあ。  都合の悪い事は教えられないってか?そうだよなあ。ショックだもんなあ」 ゆっくりとボクと王子を見比べました。 「箱さん…?」 王子の潤んだ目が、ボクを苛みます。思わずボクは目をそらせてしましました。 彼には知られたくないです。でも、現実はそれを許してはくれません。それが罪の重さなのでしょうか。 ボクは自分の愚かさにただ絶望するしかありませんでした。 馬は王子の腕を掴んだまま、彼の目をその冷たい瞳で見つめながら言いました。 「この箱なー、スゲエ事してたんだぜ?  レア欲しさに平気で人間売り飛ばすような奴だったんだよ。そんな事聞いてないだろ?」 「そんな事…箱さんがするわけない…」 王子の震える言葉は、ボクに深く深く突き刺さりました。 「するんだよ。さっきの乳だってあいつが連れてきたんだ」 王子は激しくかぶりをふって怒ったように、 「箱さんはそんなことしない!」 と叫び、再び馬から逃れようと暴れ始めました。 「だったら本人に聞いてみればいいだろ?」 そう馬に言われた王子はボクの方を向き、出会った時と同じまっすぐな瞳で『そんなことするわけないよ ね』と訴えてきました。 ボクはただうつむいて、黙っている事しかできませんでした。嘘をつくこともできません。 もう王子の目を見ることもできません。 「箱さん…!なんで黙ってるの!?」 今にも泣きそうな王子の声は、やがて失意の色が浮かんで弱々しくなっても、ボクに語りかけるのをやめようとはしませんでした。 「箱さん…ねえ…嘘だよね…?箱さん…箱さん…」 馬は、ボクに哀願する王子に現実を突きつけるのをやめようとはしません。 「あれからもう何人か釣ってもらおうと思ったら、連絡つかねえじゃん。  まさかここにいるとは思ってなかったよ。俺、フツーにうろついてただけだし。  お前が教えてくれてよかったよ」 馬は王子に微笑むと、そこでふいに言葉をとぎらせました。 そしてしばらく王子を見つめ、何か思い出したように笑い出しました。 「はははははは、そうか、てっきり箱は怯えて逃げたもんだと思ってたけどさ…」 馬は指で王子の顎を軽く持ち上げると、彼の顔をじっと見つめました。 「こんなのを用意したってわけだ」 「!」 王子は馬の目から逃れようと顔を背けようとしますが、その前に恐怖が先立ってその手から逃れることは できません。 「彼は関係ありません!!!すぐ放してください!!!」 ボクは声の限り叫びました。もちろん、ボクは馬のために王子と仲良くなったわけではありません。 何もかも放り出したボクと偶然出会っただけです。それだけは本当です。 「まあ俺にはどっちだっていいんだけどな」 そして馬は突然、王子を地面に押し倒しました。 「うぁっ」 体を地面に強く叩きつけられた王子は苦しそうに悶え、どうにか馬から離れようと身をよじらせています。 しかし、馬は片手で王子の首を押さえると、彼の服を取り出したダガーで乱暴に引き裂き始めましたので す。 「やめてください!!!!!」 王子を助けなければ、と思いボクは勢いにまかせて立ち上がりました。 しかしバランスがうまくとれずにその場に倒れてしまいます。 ボクは諦めずに起き上がろうとしましたが、体に力が入りません。 「はははは、ざまぁねえな」 馬は以前王子の首を押さえつけたままボクに嘲笑を浴びせました。 そして破いた服を引き剥がし、白い肌をあらわにしていきます。 「…やっ…ぅぐ」 王子は苦しそうに馬の手を掴んで身をよじらせました。 しかし馬は容赦なく、彼のズボンにもダガーの刃先を引っ掛け、何のためらいもなく引き裂きました。 「やめてください、彼には手を出さないで下さい!!!今すぐやめてください!!!」 ボクの叫びだけが空しく小部屋に響き渡ります。 「それに彼は…男の子です。そんな事───」 「んなのどっちでもいいよ」 裸同然になった王子の白い体を馬はしげしげと見つめ、卑猥な笑みを浮かべました。 「うぅ…げほっげほっ」 ふいに首を解放された王子は、その場で体を隠すように縮こまると、激しくむせ返りました。 しかし馬はすぐさま彼の肩を掴むと、地面に横たわらせます。 王子はぽろぽろと涙を流しながら馬を見つめていました。 「や…やめてよ…」 王子は小さな口を動かして哀願します。全く力が入らないボクは、何をしようとしても硬い体が軋むだけ でした。 「恨むならあの箱を恨むこったな」 馬の手が王子の胸をするりとすべり落ちます。 「や───!」 王子の体がわずかに反応したと同時に、馬はキスをして王子の唇を塞ぎました。 「んぅっ」 無理やり舌をねじ込んでいるのか、王子の唇の端から唾液が一筋、ゆっくりとつたっていきました。 ボクは叫んで、叫んで、叫びまくって、自分の体の隅々に『動け』と命令します。 ぎしぎしと音を立てているだけのボクを尻目に、馬の行為は更にエスカレートしていったのです。 おもむろに自分のモノを取り出すと、そのまま王子を貫いたのです。 「んぁああああああああっ」 狭い小部屋一杯に、王子の悲鳴がキンと響き渡りました。 「うああ───いやぁあああ」 激しくかぶりを振って、体をよじらせながら痛みから逃れようとしますが馬の容赦ない侵入には返って苦 痛を増しただけかもしれません。 「力抜かねえと入らないだろ?」 馬が身をかがめて王子の髪をつかみ、痛みに目を見開いている彼に顔を近づけて言います。 王子はただいやいやと小さくかぶりを振って体をこわばらせ、必死に抵抗を繰り返していました。 目の前で広がる惨劇にボクは絶望するしかないのでしょうか。 ただ黙って見ていろというのですか。 王子を助ける事すらできず、結果何も関係ない彼をこんな酷い目にあわせてしまったボクへの天罰でしょ うか? 涙というものが流せるのなら、きっと今のボクは涙を流して泣いているでしょう。 他人を巻き込んだ自分の愚かさはどうあっても許せるものではありません。 「んぅっ…あっ」 やがて王子の声から悲痛な色が抜けていくのがわかりました。 頬だけではなく、ほんのりと体全体が上気しているようです。もう目は現実を見ていないのか、 ただ呆然と天井を仰ぎ見ているだけでした。 「っはは。すげえなこいつ…」 馬は、王子を貪るように激しく腰を動かしていました。 「少なくとも…初めてじゃねえだろ」 「あぁっあっあっ」 王子は突き入れられる度に、小さな口から高い声を漏らします。 「く・・・結構仕込まれたんじゃねえの?すげえ吸い付いてくるしなあ」 「…やっ…はぅ」 突き入れるリズムが変動すると、王子は敏感に反応し身をよじらせました。 もうすでに、未発達ながらも彼のペニスはぴんと上を向いていました。 「お前も人間だったら楽しめたのになあ?」 と言って馬は倒れているボクを一瞥すると、腰の動きを早めました。 「やめてください…」 ボクはもう何度この意味の無い言葉で訴えたかわかりません。 「やめる?こいつの体はもっとしてくださいって言ってるぞ?」 「…やめてください…お願いです…」 「駄目だね…」 馬は冷たく言い捨てると再び、王子の体を弄び始めたのです。 -------------------------------------------------------------------------------- 目を疑うような光景の中、ボクの意識はいつの間にか途切れ始めていました。 とうとうボクも全てが壊れ始めてきたようです。 意識が蘇る度に馬と王子の荒い息遣いと喘ぎ声が聞こえます。 もう何度しているのでしょうか? それともまだ数分しかたっていないのでしょうか? このまま壊れてしまうのも、何だか悪くないと思いました。 当然の報いとして、自分が犯した罪の結果の只中で朽ち果てて…。そもそも、誰にも知られずに消えてし まおうという考えが甘かったのだと思います。 ボクはただ逃げる事しかしていませんでした。逃げる事しか考えていませんでした。 そしてそこの結果です。当然というべきでしょう。 …ご主人や王子、…この王子だけには本当に申し訳ないと思っています。 ボクと出会ったばっかりに、こんな仕打ちを受けているのですから。 きっともうボクの事を嫌っているに違いありません。 嫌われて当然の事をしていましたから。知られるのがこんな結果になってしまっただけでしょう。 どうあっても逃れられない事実というのは、遠ざかればその分だけ尾を引いて残酷な物となって目の前に 蘇ります。 王子と出会ってボクは何度、自分の愚かさを認知したことでしょうか。 あまりにも愚かすぎて笑いがこみ上げてきました。 そうでした、ボクはいつも逃げてばかりでしたね、ご主人…。 『まーったく!なんでその時にすぐ言わなかったの!?黙ってればいいだろうなんて考えはやめなさい!』 些細な事でも、ボクはいつだって逃げ回っていました。 普通ならば誰もしないようなミスを犯し、笑われたりバカにされるのが怖かったのです。 そして何より嫌われたくありませんでした。 それでもいつかは明らかになってしまい、ご主人や周りの方に酷く叱られていました。 ボクはいつだって答えを分かっていた筈なのに、何度も何度も同じ事を繰り返していたのです。 「…箱はカエレ、か…ボクにはとってもお似合いですね」 誰に言うでもなく、ボクはぽつりと呟きました。 「そんな事ないよ…」 ふと、近くに王子の声を聞きました。 ボクは曖昧だった意識を総動員し、精一杯動かせる範囲で頭を動かしながら王子を探しました。 王子はボクの体に寄り添うように、破れた服を羽織って座りこんでいました。 いつの間にあの狂った宴が終わったのでしょうか?馬の姿が見当たりません。 「…!」 ボクが倒れている反対側の壁に、あの馬が寄りかかるように倒れていました。 「僕がやったんだ、あの人…箱さんと、箱さんのこれを壊そうとしたから…」 と言って、王子はボクの眼前に端末を見せました。 そしてボクの中に今までの事が蘇ります。 「…ああ、ボクはあなたに取り返しのつかないことを───」 「箱さん、それであんなに悩んでたんだ」 王子は悲しそうにボクの言葉を遮ると、 「僕は大丈夫だよ」 そう言ってにっこりと微笑みかけたのです。 ボクにはそれがわかりませんでした。何故こんなことになってしまったのに王子は笑っていられるのでしょうか。 「でも、あなたはボクと出会ってしまったばっかりにあんな事をされてしまったのですよ?」 激しく捲くし立てるとその影響で視界にノイズが走りましたが、王子はノイズの奥でも出会った頃と全く 同じ笑顔でした。 「もういいんだ、僕にとっては箱さんと会えたことが大事だもの」 「…でも、でも…」 「それに箱さんは、動けないのに一生懸命助けようとしてくれたでしょ?嬉しかったよ」 嬉しかった?どうして王子はそんなに笑っていられるのでしょうか。 「あんな事されるの、別に初めてじゃなかったし…」 そう言う王子の笑顔に雲がかかりましたが、すぐに明るさを取り戻します。 「最後の最後に、抵抗したのは初めてだったけど」 恐らく馬は、ボクの端末とボク自身を破壊する事で証拠を消そうとしたのかもしれません。 こういう場合は曖昧になる人間の記憶より、無条件に全てを記録した機械の方が証言になります。 対人へのいかなる攻撃行為は認められていません。見つかればライセンスを剥奪されるでしょう。 いくら馬のした事が前提にあっても、不利に陥るのは攻撃した後者にあたります。 王子は自らの手を汚してでもボクを助けたかったというのですか? こんなボロボロのボクを。 「…それでも、ボクのした事は許される事ではありません」 「…」 王子は黙ってボクの体に手を添えました。 ボクの中で、ある決意が形になってきました。 「すみません、今から全ての動力を最小限にします。少し喋るのが遅くなったり、  見ること聞く事もままならなくなりますがご了承くださいね」 「え?…うん」 王子は一体何をするの?といった表情で曖昧に返事をしました。 そしてボクは、実行します。 視界はモノクロになり、聴覚と共に絶えず雑音の世界に変わりました。 それでもメモリーは、ボクの一挙一動を絶えず記録しています。ボクは、自身が『最小限に抑えた』とい う命令行動を頻繁に書き込んでいる場所を特定しました。 そしてその場所を確保したまま、ボクは王子に言いました。 「…お願いが、あります」 「箱さん…大丈夫?」 ボクは返事をしないで続けました。 「ボクの背中…を開けて、その中にある、メモリーカードを、取り出して…もらえませんか?」 「…?」 王子の声が雑音に紛れてよく聞こえないのでボクはそのまま続けます。 「そして…その、端末にある…一番上のカードの…に、届けて欲しいのです」 「そんな事したら……は………の?」 モノクロの視界の中で、王子が困った顔をして何か言っています。 「場所は…ボクが、誘導…しますから…」 王子はボクを見つめたまま動きません。 「お願い、します…」 「…やだ」 かぶりを振る王子に、ボクは仕方なく一度制御を解除してきちんとお願いすることにしました。 視界と聴覚が元にもどり、王子の悲しそうな顔がはっきりと見えるようになりました。 しかし急な動作をしてしまったので、ボクの中に負担がかかっている事がわかります。 あまり時間は残されていません。あと一度しか、制御行動はできないでしょう。 勝手な事とは分かっていますが、今は彼に協力してもらうしかないのです。 「お願いします。どうか取り出してもらえませんか?それをボクのご主人に届けて欲しいのです」 「それ取ったら、箱さんしんじゃうんじゃないの?」 「いいんです、もとよりこのまま壊れますから」 「やだよ直して貰おうよ!」 王子はボクの体に抱きついて、泣きそうな声で叫びました。 「駄目です。ボクは罪を償わなくては…その為に、ボクのメモリーは必要なんです」 「でも…」 「ボクが完全に動かなくなってしまったら、メモリーカードもすぐに取り出さないと駄目になってしまい ます。  まだ動けるうちに取っていただけないでしょうか…。  それに…あの馬がいつ目覚めるかも分かりません」 今ここであの馬が目覚めたら、ボクの思惑は全て無駄になってしまいます。 「死んでるよ」 ふいに、ボクに抱きついている力が強くなったように感じました。 「メギド撃ったんだ…だから…」 にわかに王子の声が震えています。 ボクの決心は、揺らぐどころかますます頑なになりました。 「──何を言っているんですか?彼はボクが殺してしまったのですよ。  ちょっとさっきの動作で忘れていました」 「箱さん?」 王子の驚いた声をボクは遮って続けます。 「さあ、お願いです。ボクのメモリーカードを取って下さい」 「うぅ…箱さん…違うよ…僕が…」 ぽろぽろと涙を流しながら、王子はボクの目の前にすわりこんで泣いていました。 「早く!」 びくりと王子の体が動きました。 「お願いです。時間がありません…どうか、お願いします」 そして、しばらくの間の後です。 「うん」 王子は涙を拭うと、真剣な表情で頷いてくれましたのです。 …ボクの意識は、王子が犯され、馬が殺されるまでの間に欠落している部分があります。 旧型のままのメモリーならば、位置さえ特定できれば書き換える事が可能です。 見つかったら勿論罪に問われますが、彼は、王子は何一つ悪くありません。 馬の殺害事実が表向きになったら、すぐにメモリーカードを差し出して欲しいのです。 ボクは再び制御に入ると、背中を開いてメモリーカードの位置へと王子を誘導します。 ボクは今、端末とボク自身を直接繋いで、メモリーから要点を引き出してこの長い長いメールを書いてい ます。 ご主人だけには何一つ隠さず伝えて置きたいので、書き換えの事実を含め、ボクの犯した全ての罪をここ に記します。 機械いじりなど滅多にしたこともない王子はきっと怯えていたに違いありませんが、黙ってボクの言う通 りに作業をしてくれました。 彼には、感謝と謝罪の気持ちでいっぱいです。 「……」 ふと、メモリーカードの位置を確認した王子の手が止まりました。 それを抜いたらどうなるか、ボクも王子も分かりきっています。 彼の手が震えています。 先程、その手を汚してしまったのに、間もなくボクを停止させてしまうのは、いくらボク自身の要望でも 彼にとっては残酷だと思います。 「本当に…すみませんでした。こんな事までさせてしまって」 「…」 「…先程、ご主人に…緊急メールを、出しました…  少し…時間はかかる…と思いますが、必ず…来ると、思います」 「…」 「その…格好…戻ったら、きっと、恥ずかしいでしょうし…」 ボクのせいですけどね、と付け足して言います。 「……」 王子はボクの真後ろにいるので、何を言っているのか、どんな表情をしているのか分かりません。 泣いているのはなんとなくわかりましたが、そんな彼の顔を見ることが出来ないのはボクにとって少し幸 いでした。決心が鈍ってしまいそうですから。 彼の手が震えているのだけはしっかり分かりました。 「怖い、ですか?」 「…」 「本当に、すみませんでした…でも、ボクも…あなたに会えて、とても嬉しかったです…」 ご主人のフォマ様へ。王子がこの端末とメモリーカードをあなたに預けた後、少し面倒な事が続くと思いま すがどうかお許しください。 最初から最後まで成長のない箱で申し訳ありません。 でも、今まで本当にありがとうございました。 一生忘れません、という言葉をボクがいうのは本当におかしいですが、どうしてか心からそう思っていま す。もっともっと沢山書きたい事はありますが…。 「…さあ、お願いします…」 そしてボクは目を閉じます。 王子の手は、以前震えていましたがやがてゆっくりとボクのメモリーカードを掴んで止まります。 最後に王子の声が、ハッキリと聞こえたような気がしました。 「またね」 ------------------------------------------------------------------------------------------- [;´Д`]オワリ だらだらと続けた挙句なんかわけわかんねーでスマソ。 (;´Д`)オマケ --------------------------------------------------------------------------- 「ふ〜〜〜っ」 細身の体には到底釣り合わない大きさの武器を地面に置くと、ぐっと伸びをして、フォマはお気に入りの腕 時計を見る。 今時腕時計だなんて、と笑われることにはもう慣れた。むしろ、端末にばかり頼るのは依存だわ、と無茶 苦茶な事を言ってのけていた。 現在…ラグオルの標準時刻では14時24分。場所は遺跡エリアの一角。回復ポイントを発見したので、そこ で休憩となった。 「さすがに、ずーっと日の当たらないところにいるのは疲れるわね〜」 と、傍らに立つ旦那を肩越しに見た。 長身の旦那は、彼の身長と同じ位であろう大剣をいとも軽々と肩に担いで立っていた。 「全く、あなたには驚かされる」 旦那はやれやれといった感じでフォマを見た。 フォマの服は長期の戦闘で所々が破け、他はすっかり汚れている。 帽子についていた飾りは跡形も無く、眼鏡も片方のレンズにはヒビが入っている程だ。 しかし彼女はその事には一切気にしていないのか、地面に置いた武器の手入れを始めた。 「けっこー重いけど、これいけるわ。私一度撃ってみたかったの!これ!バズーカ!」 「あなたのようなか弱い女性が…そんなモノ振り回すだなんて…」 旦那は呆れたようにかぶりを振った。 「あら偏見ね。今はどんな女性だって戦わなきゃ」 フォマは旦那の方を見ずに言った。 「それに…」 ふと、手が止まる。 「もうすぐあの子がウチに来て1年よ、1周年!何かプレゼントするのが当たり前でしょう?」 「あの子…ああ、あの箱ですか…」 「そう。せめてカッコイイ武器の一つでも持たせてあげたいじゃない?」 フォマは嬉しそうに言った。 「そういった感情は理解しがたい」 「もったいないわ」 理解されなかった事を落胆するわけでもなく、フォマは至ってさらりと言ってのけた。 フォマにとってハンターズは副業。本職は花屋。 と、本人は言っているが、今時花屋など流行らないし流通自体がストップしている。 彼女はいつだって、どんな人種でも訳隔てなく接する。相手がニューマンやロボットだろうとも、フォマは フォマ自身のペースを決して崩さなかった。早い話がマイペースなのである。 そんなフォマの周りには、自然と弱い者が集まってくる。もちろんフォマは拒否する理由がないし、皆大好きな ので喜んで受け入れる。 そのせいで彼女自身何度も、陰口を言われたりいやがらせをうけたりしていたが決して臆する事はなかっ た。 今では「パイオニアの変わり者」として彼女を知らない人はいなかった。 そんな時に、彼女の元に配属されたのが一機の箱。 周りは『政府からのスパイだ』『廃棄処分の筈が経費削減の為おしつけられた』だの色々噂が飛び交った が、フォマは全く気にしない。それどころか、喜んで受け入れた。 旧型の箱。 中身は殆どリサイクル品のモノばかりで手入れもされていなかった。 フォマはそれの一つ一つを綺麗に復元した。そして、引越し資金として貯めていた貯金を全てはたいて部品 を買いあさり、慣れない機械いじりに長い間奮闘し続け感情回路を完成させた。 綺麗に完成された箱はいわば、フォマの努力の結晶だった。 まるで自分の弟のように接し、しつけや教育を一貫。 イマイチ覚えが悪いのは、箱自体の性能の問題であるが、彼女はロボを「物」として扱うのをなにより嫌ったので「人」として接し続けた。 そして1年の月日を共にし、フォマはある事を思い立つ。 『あの子は私の元に来た日がいわば誕生日、お祝いしなくちゃ!』 思い立ったらすぐ行動。フォマならではのマイペース。 なにか箱が装備できるような物を探しに行くために、遺跡散策と相成った。 しかし、何分ラグオルの最下層にあたる遺跡は最も危険である。 フォマは自分が持っているカードに片っ端からメールを送りつけ、この傍らに立つ旦那を連れて行くことに 見事成功したのだ。 「こんな事を言うのは失礼にあたるのを承知だが…」 おもむろに旦那が口火を切る。 「何故あの箱にそんなに入れ込む?箱が世間でどういう扱いを受けているか、知らないわけでは無いと思 うが」 フォマは黙って武器の手入れを続けている。 「感情を植え込むのは…かえって残酷──」 「さて。完了っと」 故意的に割り込んだのか定かではないが、フォマはバズーカを両手に持って立ち上がった。 旦那もそれ以上続けようとはしなかった。 代わりに、 「せめてそのボロボロになった服はなんとかできないかね?」 と、話をそらせた。 「へ?」 「へ?じゃなくて」 「は?」 「は?でもなくて」 はたから見れば遺跡で漫才をしているように見えるだろう。 旦那は『この人俺をからかっているんじゃないか』と思ったがそんな考えはすぐさま消え去った。 このフォマは目的の為なら自分のことすら見失うのは重々承知している。 初めて出合った時の事を、旦那は痛烈に覚えている。 ロビーで「属性のいい赤のハンドガンンがどうしても欲しいので、付き合ってもらえません?」と声を掛 けられ、一緒にラグオルに降りた。当時、旦那は彼女が「パイオニアの変わり者」と呼ばれているのを知 らなかった。フォースだから、後ろで補助さえしてくれればよい…その程度に考えていた。 実際に森に降りても、フォマはフォースらしく思ったとおりの動きをしていた。 しかし、エリアが終了した時、悲劇は起こった。 「ちっともいいのが出ないじゃないの。もう一回」 もう一度くらいならつきあってもいいかと思ったのだが…それが終了しても、 「もう一回」 彼女は真剣な眼差しで言った。 それから何度か同じ所を回ったが、なかなかフォマの満足する物が出なかった。 するとフォマは決してあきらめずに再び森へ。 そんな彼女がどこまでもつのか、面白半分で付き合っていたが結果一日中森を詮索し続けた。 気が付けば旦那もフォマもボロボロで、忘れた頃に訪れたメディカルセンターの看護婦に何があったのか問 い詰められるほどだった。 結局その日はドクターストップがかかりそれ以上散策することは不可能になってしまったが、フォマが不満 そうにずっと文句を言っていたのを旦那は覚えている。 旦那はそんな事を思い出し、ふいに笑いが込み上げてくる。 「何?そんなに…おかしい?」 フォマは相変わらず間の抜けた顔で旦那を見ている。 「いや…一応女性なのだから、少しは気にしたほうがいい」 と、旦那は一息ついてからそう言った。 「それどころじゃないんだけど…」 フォマはブツブツと文句を垂れつつ自分の格好を改めて確認している。 あちこちが破け、色々な所に汚れが目立っていた。 ロングスカートの脇は裾から綺麗に切れて、スリット状態になっている。歩くたびに、切れ目からちらち らと白い腿を覗かせていた。 破れ目を手で閉じたり、汚れをはらったりするが結果は何も変わらない。というかフォマ自身、身だしなみ を整えるつもりがないのが、もう態度にはっきりとあらわれていた。 旦那には性欲やそれを駆り立てる情景を感知する機能など搭載されていないので、何も感じないが、もし ここにいるのが旦那ではなく血気盛んな馬だとしたら… 眼鏡を掛けているが、それがどことなく幼さを漂わせるフォマ。 胸はかなり大きい方だろう。その胸からくびれたウエスト、そして形の良いヒップへと続くラインは常人 からみれば「美しい」部類である。 そんなフォマが遺跡であちこちやぶけた服で目の前をうろついていたら、間違いなく襲っていただろう。 それくらいは容易に考えられた。 「あなたには、危機感と言うものはないのか」 「もう、こんなのに構ってる暇ないのよ…」 フォマは溜息を漏らす。 「せめて傷口だけでも洗浄したほうがいい」 旦那も譲らない。フォマは旦那を一瞥すると、 「んもう、わかったわよ。じゃあ滝!滝ね滝!」 そして先頭を切って歩き出した。 旦那はやれやれ、とかぶりを振ると、それ以上の言及はあきらめて後に続く。 「…あの箱の前でもそんな調子で?」 「そんな調子って…?」 「よもや家の中じゃ箱がいようがいまいが裸でウロウロしていないだろうな、といった意味だ」 あきれ果てている旦那に、フォマはまさか〜、と力無く手を振って否定した。 「んもう、そんなわけないでしょ?一応、あの子にはそれなりの教育してるし」 フォマは、以前箱が浴場に入ってきた時、お湯をぶっかけて叱り付けた…といった話をした。 「私は平気でも、他では何も知らないじゃ済まされない場合もあるでしょ?  …にしても、あの時の私は迫真の演技力だったわ」 「…」 旦那は色々と指摘したい衝動にかられるが、あえて我慢し、黙って彼女の後に続いた。 遺跡エリアのある一角に、大きなクレーターのような穴があいている。何が原因なのかは分かっていない が、その影響でそこには滝が流れていた。 水は結構な勢いで流れているが、シャワーとして活用するには充分すぎる程だった。 フォマは無造作に服を脱ぎ捨て、滝の中へ入っていった。 「また!あなたというひとは!」 旦那はフォマの裸体をみても何も感じないが、一応礼儀として、彼女に背を向けつつ、彼女が放り出した服 をたたむ。こんな事をしている自分が少し情けなかったが、何かと世話を焼いてしまう性分はどうするこ ともできない。 「いそいでるの、いいでしょう?──っつめたぁ〜〜〜い」 フォマが滝越しに言った。 旦那はふと、彼女が箱をひきとったもう一つの理由がわかったような気がした。 (家事全般だな…違いない。絶対に違いない)あえて口に出す事はせず、黙って滝に背を向けて立っていた。 「私あの子に嘘ついてるのよ。森の調査だって」 ふいにフォマが口を開いた。 「きっと遺跡なんかに行くって言ったら絶対反対するし…ついてくるとも言いかねない」 「確かに。あなた一人では手におえない場所だ」 旦那が相槌を打つ。 「残りあと1日。がんばらなきゃ…」 フォマは焦っていた。5日程でいいだろう、と充分余裕を持ったつもりだったのだが、今までの結果は散々な 物だった。手に入るものといったら、フォマにも箱にも装備出来ないインペリアルピックばかり。 あれこれとしているうちに4日も経ってしまった。 「ごめんなさいね…無理やりつきあわせちゃって」 「気にすることは無い。それに断ってもあなたの事だ、独りでも行くに違いない。  知合いが遺跡でのたれ死んだという報告はできれば聞きたくないものでね」 皮肉交じりに旦那が答える。 「あら。言ってくれるわね」 それでもどことなく嬉しそうなフォマの声。 フォマは滝から出てくると、頭を振って濡れた髪の水を飛ばし、ギフォイエで体を乾かしていた。 「たたんでくれてたの?ボロボロなんだからほっといてよかったのに。でもまあ、ありがとっ」 旦那の傍らにたたまれた服や下着を取る。 「はぁ…」 旦那は、『この人は生まれてくる性別すら間違えたのではないか』という疑問を抱えつつ、深く溜息をつ いた。 「さて…いきますか」 そして再び、普通の人間ならば目のやり場にこまる服装に身を包んだフォマは愛用のバズーカを抱えて先頭 に立つ。旦那も地面に突き刺した大剣を抜くと、彼女の後に続いて歩き出した。 やはり遺跡は並大抵の場所ではない。 数の多い敵に、二人ではすぐ手一杯になってしまい、受けるダメージも半端ではなかった。 「このっ」 フォマはテクニックで太刀打ちするが、敵の高い防御力の前にはたいした効果も得られない。 防御力の低いフォマは反撃をくらうと大ダメージとなり、TPの殆どは回復にまわしてしまう。 旦那は熟練された戦闘パターンを駆使するが、すぐさま四方から囲まれて動きが封じられ、細かいダメー ジを何度も受けていた。 「もうっ!なんでこんなに多いのよ!」 今に始まったことではないが、フォマは文句を言わずにはいられない。 旦那は群がるクローをなぎ払うと、大剣で一気に叩き切った。 ボトッと、いやな音を立ててクローが次々と床に落ちる。旦那は、一度大きく剣を振って返り血を振り払 う。 「…さすがね」 フォマはバズーカを下げ、額の汗を拭いながら旦那を見た。 「態勢を崩すな!」 旦那の怒号が空気を張り詰める。 その直後、背後に淀んだ気配を感じた。 「え───!」 振り向くと同時に、肩から背中にかけて鈍い衝撃が走り、視界が一瞬反転する。 「な…」 フォマは体勢を崩しそのまま倒れこんだ。 すぐに立ち上がろうとしたが、思ったよりダメージが大きく、なかなか立ち上がることができなかった。 それどころか意識が朦朧として、目をあけていることすらままならない。 旦那が目の前で戦っている音がだんだん遠くなる。 「いや…」 (こんな所で倒れるわけにはいかないのよ) 肩が熱い。あまりの熱さに痛みをも通り越し、意識が奪われていく。 「まだ、よ…」 しかし、フォマの意識はそこで途切れ、気だるい眠りの中に放り出されていった。 そして夢を見た。 昔、箱に話した自分の夢だった。 移民できる星が見つかって、そこで花屋をやっている。 両親がやっていた花屋が再建できたのだ。 箱は、店番。 箱は似合わないエプロンをして、花に水を撒いている。 そんな箱が可愛く見えて仕方が無かった。 「ほんと…おかしいんだから…」 「目覚めたか」 ふと、どこから聞いたことのある声が世界をゆがめる。 やがてフォマの意識は逆戻りを始め、感覚が研ぎ澄まされていく。 消毒液の匂いが鼻につき、フォマははっとして体を起こした──つもりだったが、体中に痛みが走って 起き上がれなかった。 「痛っ──」 「無理に起き上がらないほうがいい」 旦那はベッドの傍らに立っていた。 「…あがっちゃったのね…」 フォマは残念そうに、メディカルセンターの個室を見回していた。 「あたりまえだろう。それにあれ以上は無理だ」 「…怒られちゃった?もうダメって?」 フォマがいたずらっぽく旦那を見ると、彼は黙って頷いた。 「うう…結局なにも見つけられないまま終わるなんて…」 シーツを握り締め、悔しそうにフォマは呟いた。が、そのシーツの上に旦那は何かを放った。 良く見ると、見たこともないハンドガンタイプの銃だが、鑑定して貰わないと詳細は分からない事は明白 だった。 「最後のクローが落とした」 「私が…倒れる時の…?」 銃を手にしながらフォマは問い掛けたが、旦那は答えるまでも無くただ頷くだけだった。 旦那が気遣ってコッソリ用意したのではないかという考えも浮かんだが、そんな事をしても彼女は決して 喜ばない。ましてやこの旦那がそこまでするような性格ではないのをフォマは知っていた。 フォマは全身で喜びをあらわにすると、旦那の静止を振り切って怪我の事も忘れベッドから降りた。 「きゃ──!!!やったわね!早速鑑定してくるっと・・・」 意気揚揚に歩き出そうとしても、怪我のせいでまっすぐ歩けない。 よろけるフォマのうでをとっさに旦那は支えた。 「あはは、ごめんなさい」 「まったく…どうせ止めても行くだろう?」 旦那はそのままフォマを支えながら、ゆっくりと彼女にあわせて歩き出した。途中、看護婦に呼び止められ たが、看護婦フォマの滅茶苦茶な言いまわしに圧倒されてしまい病室に戻す事が出来なかった。 フォマの頭の中は、1年をどうお祝いするか、どんな料理を作るか、部屋をどう飾ろうか──その事で一杯 だった。このプレゼントを渡すのは最後にしようということはもう最初から決めていた。 誰もいなくなった病室の傍らには、フォマの端末が軽快な着信音を鳴らし、メール着信を知らせる赤いラン プが静かに点滅していた。 フォマが洞窟に赴き、涙で顔をぐしゃぐしゃにした王子に箱のメモリーカードと長いメールの入った端末を 受け取るのは、これから約20分後の事になる。